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名古屋高等裁判所 平成9年(行コ)21号 判決

控訴人

有限会社浜千鳥リサイクル

右代表者代表取締役

入江康仁

右訴訟代理人弁護士

伊勢谷倍生

向山欣作

被控訴人

紀伊長島町長

奥山始郎

右訴訟代理人弁護士

坪井俊輔

楠井嘉行

楠井嘉行訴訟復代理人弁護士

梶山正三

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成七年五月三一日付規制対象事業場認定通知書によって控訴人に対してなした控訴人の産業廃棄物中間処理施設に対する規制対象事業場認定処分を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

一  事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実及び理由欄の「第二 事案の概要」(原判決三頁七行目冒頭から同四五頁一〇行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁八行目「三重県紀伊長島町大字島原地内」を「三重県北牟婁郡紀伊長島町大字島原地内」と改める。

2  同七頁四行目「乙七、」を「乙一、二、七」と改める。

3  同八頁六行目「同月一一日、」を「平成七年七月一一日、」と改める。

4  同一〇頁四行目「九五立方平方メートル」を「九五立方メートル」と改める。

5  同一六頁七行目「これとと」を「これと」と改める。

二  当審における控訴人の主張

1  本件条例の無効、違法

(一) 法の下の平等の原則違反

控訴人は、本件施設について、平成七年五月一〇日、産業廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)第一五条一項に基づき、三重県知事の許可を得た。右許可にかかる施設について、被控訴人は、同月三一日、本件条例第二条三号又は五号を根拠に、三重県知事の許可にかかる施設の設置を事実上禁止する趣旨の本件処分をした。本件処分は、本件施設が産業廃棄物中間処理施設であることを一つの理由としている。しかし、水源の枯渇に関しては業種により差別的取扱いをする合理的な理由はないのに、産業廃棄物処理業者を標的にし、いわれなき差別を定めたものであるから、本件条例は法の下の平等の原則に反する。

(二) 廃棄物処理法違反

同法は、産業廃棄物中間処理施設の設置の許可の権限を都道府県知事に専属させている。三重県知事が適法と認めて許可した本件施設の設置を、被控訴人が合理的な根拠もなく禁止することは、越権行為であり、たとえそれを許す本件条例を制定したとしても、右法律に反するもので無効である。

(三) 水位低下の判断基準の欠如

本件処分は、控訴人が本件各施設計画地において日量九五立方メートルの取水を禁止するものであるが、水源の枯渇、すなわち、「取水施設の水位を著しく低下させる」という基準が具体的にどの程度の低下を指すのかについて、本件条例にも同施行規則にも明確な規定がない。枯渇のおそれの有無の判断基準がその低下の数値の計算式を含めて全く明示されていない点において、本件条例は必要最小限度の明確性すら欠いており、廃棄物処理法が詳細に具体的基準を定めて施設の設置を知事の許可にかからしめている法の趣旨を潜脱するもので、同法に反し無効の条例である。

(四) 遡及適用

本件条例の制定と、控訴人の本件事業計画の事前協議の開始から三重県知事の許可を得るまでの経過をみると、本件条例は控訴人が本件事業計画書を三重県に提出し、県及び紀伊長島町関係各機関との間で事前協議が行われた後に、本件事業計画を阻止する目的で制定されたものである。本件各施設計画地が、後日指定された保護地域に含まれるとの理由で、本件施設に本件条例を適用することは、遡及適用に該当する違法なもので、許されない。

2  日量九五立方メートルの取水による赤羽水源への影響の有無

(一) 本件各施設計画地での日量九五立方メートルの取水が赤羽水源に対しどのような影響を及ぼすかは、実際のボーリング結果資料に基づいてのみ知ることができる。赤羽水源の井戸の中心から直線距離にして一〇〇メートル以上離れて同一規模の井戸を設置した場合には、その新たな井戸から日量二〇〇立方メートル取水しても、水位の低下の及ぶ範囲は半径五〇メートルであるから、互いになんの影響もないことは先に主張したとおりである(原判示。甲一〇中の銅勝工業所の揚水試験結果及び原審証人大田行保の証言。)。そうして、この点の控訴人の主張は、原判決後に、株式会社相愛に依頼して、赤羽水源の井戸の近傍において、新たに観測孔六孔を掘って日量九五立方メートルを取水し、地下水の水位低下を来す範囲を調査した結果によっても更に裏付けられた(甲五二)。右調査に基づく地下水位の観測値、揚水試験、地下水流動量、流量観測値によれば、日量九五立方メートルを取水する新たな井戸が、赤羽水源の取水施設から一五メートル以上離れた場所に設置されるならば、赤羽水源の井戸の水位は低下しないこと、又、赤羽水源の地下水は三戸川の河川量によって涵養されていないこと(失水河流でないこと)が詳細に実証された(甲八二、一〇九、一一四、当審証人中村和弘、同上森千秋)。本件各施設計画地は赤羽水源から直線距離にして約三キロメートル離れているのであるから、本件各施設計画地で日量九五立方メートルを取水しても、そのために赤羽水源の井戸の水位が低下するおそれは全くない。

(二) 被控訴人は、赤羽水源の二号井(以下「浅井戸」という。)が過去二回枯渇した事例を指摘する。浅井戸の水位がゼロを記録したのは、浅井戸(深さ約9.5メートル)の機械式水位指示計の水位表示がゼロを表示したにすぎず、その設計に問題があり、地下水流動量の不足ひいては枯渇が原因ではない。すなわち、浅井戸の水位計の読み取り値(台帳の記載値)がゼロであるときの浅井戸の運転水位からの水深は、約2.8メートルであるから、浅井戸の運転水位からの水深は読み取り値に約2.8メートルを加えた数値であること、浅井戸の水中ポンプの運転水位は海抜7.69メートルに設定されているところ、海抜換算値で浅井戸が10.36メートルのときには、自然水位は運転水位より約2.8メートル高い位置にあるから、浅井戸が枯渇したり取水不能にはならない。

したがって、浅井戸が過去二回枯渇し取水不能となって深刻な水不足に見舞われたという主張は措信し難い。控訴人の試算(甲四一の1、六〇ないし六二)によれば、右時期の浅井戸は、実際には日量一万五六一六立方メートルの取水が可能な状態にあったものである。

紀伊長島町は日本屈指の多雨地帯であり、赤羽水源の近傍の地下水流動量は渇水期で日量四万八〇〇〇立方メートル、過去十数年の最渇水期においても日量三万立方メートルであるが、赤羽水源の井戸からの取水は最大でも日量三五〇立方メートルなので、地下水はあり余っている。この地域で水位ゼロとなる井戸は欠陥井戸であるから、一号井戸(以下「深井戸」という。深さ約二三メートル)が設置されているのである。深井戸の渇水水位は地下11.3メートル、低下許容水位は地下一三メートルに設定されているので、その水位幅は1.7メートルであり、銅勝工業所の揚水試験結果の水位低下高を示すグラフに当てはめると、日量一万一〇〇〇立方メートルを超える揚水量に該当する。深井戸の右能力からみて、本件各施設計画地での日量九五立方メートルの取水により、深井戸が枯渇するとは考え難い。

3  地下水資源の環境影響評価の方法について、水収支法を適用することの誤り

(一) 経験法を採用せず、水収支法を適用したことについて

本件各施設計画地、特に第一敷地における控訴人の施設の取水方法は数か所の集水ピットによって湧水を汲み取るものであるが、補助的に雨水、調整池の水を用い、例外的に給水タンク車による水道水で補給する計画である。それでも不可能な場合には操業を休止すれば足りる。なお、使用済の排出水はすべて蒸発させる計画である。

本件における地下水資源の環境影響評価は、経験法、すなわち、揚水量と地下水位(現実には井戸水位)との関係及び両者の時間的経過から当該井戸の適正揚水量、透水係数を求める方法に基づいた調査結果によって判断すべきである。

(二) 水収支法の適用に当たり、流域面積からの地下水流入量を考慮せず、敷地面積を前提とする点について

被控訴人は、地下水涵養量を算定するのに敷地面積単位で割り出し、敷地面積の範囲の上に降る雨が涵養したその土地固有の地下水涵養量を求めるが、これは根本的な誤りである。この手法は、赤羽水源の流域全体についてすべての土地所有者が一斉に井戸を掘って取水する事態を想定するもので、現実離れした空論である。日量九五立方メートルの取水によって赤羽水源の水位に与える影響の有無程度を調査するのに、本件各施設計画地の面積の広狭は無関係である。つまり、敷地の地下水涵養量と九五立方メートルとの差がプラスかマイナスかということと、赤羽水源の井戸の水位が低下するかどうかということは全く別の問題であって、一坪の地主が取水する九五立方メートル一〇〇坪の地主が取水する九五立方メートルも同じ九五立方メートルの水であることに変わりはない。現実の地下水は流域内を一体として流動しているものであり、各敷地境界とは無関係に自然界を流動している。したがって、影響の有無、程度は、いずれも敷地面積とは無関係に、流域の地下水全体の流動量、取水量、他の井戸との距離の遠近等によって違ってくるものである。

又、地下水流動量を超える取水は、貯留量を食いつぶし、枯渇の原因となるから、枯渇を未然に防止するため、全体として地下水流動量の範囲内の取水に止まるよう調整するのが本来の水収支の考え方である。本件各施設計画地の場合、1.8倍の後背地から流入する地下水を考慮すると、162.4立方メートルの地下水が控訴人の本件各施設計画地の地下を通過することになる。これに対し赤羽水源の流域面積は30.6平方キロメートルであり、渇水流量でも日量約四万二三〇〇立方メートルであるから、仮に水収支の考え方によったとしても、敷地単位でなく、涵養流域単位の正しい水収支法によれば、日量九五立方メートルの取水は水収支をマイナスにしないので、赤羽水源に全く影響を及ぼさない。被控訴人の主張に沿う乙三、一一、四二は信頼するに足るものではない。

なお、ある単位水域について水収支の調査をするについては、当該水域についてある程度の長い期間にわたる基礎的資料の集積が必要不可欠であるが、本件三戸川についてはそのような資料はない。被控訴人は一級河川である新宮川に関する資料を借用して本件各施設計画地の水収支を算出するが、新宮川は三戸川と河川相を異にするのでその資料は信頼できるものではない。

なお、被控訴人が当審で提出した乙四六、四八、五一、五二の資料は、降水量、水位の変化に関してミリ単位まで記載したもので、右実測値はかいざんデータである。

三  控訴人の主張に対する被控訴人の反論

1  本件条例の無効について

(一) 控訴人は、原審の第二回口頭弁論期日において、裁判所の釈明に対して、本件処分の違法事由を、本件各施設計画地における日量九五立方メートルの取水は赤羽水源を枯渇させないという一点に絞った。しかるに、控訴審に至って本件条例の無効を主張するのは、禁反言の法理、訴訟上の信義則に違反し、許されない。又、右主張は故意に時期に遅れた攻撃防禦方法の提出に当たり、訴訟の完結を遅延させるものであるから、却下されるべきである。

(二) 仮に、(一)の主張が認められないとしても、本件条例は水質汚濁のおそれ、水源の枯渇のおそれのある事業の一つとして産業廃棄物処理事業を規制するものであって、右業者のみ無条件に排除するものではないから、法の下の平等に反しない。

又、廃棄物処理法は廃棄物を適正に処理し、生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする。これに対し、本件条例は、水道法第二条一項の規定に基づき、被控訴人の住民が安心して飲める水を確保するため、水道水質の汚濁を防止し、その水源を保護し、住民の生命、健康を守ることを目的とするものであるから、右法律と趣旨が異なる。

次に、枯渇の基準がないとの主張については、枯渇とは、かわいて水分がなくなることであるが、被控訴人においては、水源の枯渇という定義を置いて、「取水施設の水位を著しく低下させること」と規定している(本件条例第二条三号)。被控訴人には現在五ケ所の水道水源があるが、各々水文特性が異なる上、将来水道水源が新設されることもあり得る。又、本件条例制定の時点で、将来の事業計画を予測することは不可能である。「水源の枯渇又はそのおそれ」について本件条例に明文の基準を置いていない理由は、右のような事情から、一般的な基準を設けることが困難であり、個別具体的な事案毎にこれを検討し、判断せざるを得ないからである。

2  本件各施設計画地における日量九五立方メートルの取水が赤羽水源に及ぼす影響の有無について

(一) 控訴人は、銅勝工業所の試験結果を援用して、赤羽水源から三キロメートルも離れた本件各施設計画地での日量九五立方メートルの取水は赤羽水源に全く影響を及ぼさない旨主張する。しかし、銅勝工業所の揚水試験は実施の目的が赤羽水源近傍における帯水層の透水係数を算出するためのものである上、渇水時期に行われたものではないから、その試験結果は右主張の根拠にならないこと、本件各施設計画地近傍の三戸川は地下水によって涵養される得水河流であり、逆に、赤羽水源の地下水は近くの三戸川の河川水によって涵養される失水河流であることは、原審で主張したとおりである。

(二) 控訴人が本件各施設計画地で日量九五立方メートルを取水した場合、赤羽水源の井戸の水位がどの程度下がるかについては、地理的条件、水文学条件等によって異なるので、具体的数値を明らかにはできない。もっとも、無降雨日が続いた平成九年一月八日から同月二三日までの一六日間について水源地流域内で日量九五立方メートル取水された場合の赤羽水源の浅井戸の地下水位を検討すると、約四センチメートル余分に下がる。仮に、本件各施設計画地で日量九五立方メートルの取水をする施設を認めると、少なくとも日量一三一九立方メートルの取水を認めざるを得なくなり、一六日目では34.4センチメートル余分に低下することとなる(乙四八)。

しかして、水収支法を適用して本件各施設計画地の敷地面積に応じた地下水涵養量を計算すると、控訴人の本件各施設計画地での日量九五立方メートルの取水は地下水涵養量九〇立方メートルを超え、水収支がマイナスになるので、赤羽水源の井戸の水位の低下を招くおそれがあることは、既に述べたとおりである。

(三) 揚水試験による影響の範囲(甲五二)について

被控訴人が本件で特に問題とするのは、渇水時における影響の有無程度である。控訴人は、甲五二、八二、一〇九、一一四、当審証人中村和弘、同上森千秋の各証言を根拠に、本件各施設計画地で日量九五立方メートルの取水を続けたとしても赤羽水源の井戸に水位低下の影響を与えるおそれはないと主張する。しかし、甲五二の調査は平成九年一一月一七日から平成一〇年三月八日にかけて行われているが、同号証の金山淵の水量を撮影した写真、乙五二の降水量及び浅井戸水位変化表図、甲五二及び乙五六に基づく調査期間中の雨量の点からみて、降水量の豊富な時期の調査である上、本件各施設計画地で日量九五立方メートルを取水したものでない等根本的な疑問点もあるので、控訴人の主張を裏付ける客観的資料にはならない(乙四六、五五の1、当審証人西村進)。

3  水収支法の適用について

(一) 本件において、地下水資源の環境影響評価の方法について、経験法によるのは適切ではなく、あらゆる水利用形態の中で優先順位の最も高い水道水源の社会的公共的性格を考慮した水収支法によって、本件各施設計画地における地下水涵養量を算定し、本件各施設計画地における地下水の取水が、赤羽水源へいかなる影響を与えるかを検討することが合理的な手法である。

(二) 控訴人は、仮に水収支法を適用するとしても、敷地単位を前提とする水収支法の適用は誤りであり、流域面積からの流入を前提とすべきである旨主張する。しかし、水収支法は、水道水源の社会的公共的性格を考慮した適切な手法であって、適正な水資源の利用は流域全体の水収支がマイナスにならないようにすべきであり、そのためには、それぞれの利用者がその敷地面積に応じた涵養量を遵守しなければならない。

ところで、本件各施設計画地には湧水のない地域で、恒常的な取水は地下水からの取水又は三戸川からの表流水等湧水、雨水以外の何らかの方法による取水以外不可能である(乙六六)。地下水涵養量の測定方法は、水文学の分野において確立されたもので、実際の地域に適用された例も枚挙にいとまがなく、建設省もこれを採用している。もっとも、本件各施設計画地における渇水流量についての資料はないが、本件各施設計画地と水文気象条件が近似し、長期に渡って流量の資料が得られる一級河川の新宮川に関する資料を三戸川に当てはめ解析することが適切な手法であり、基礎資料の正確さと解析方法の正確さとから十分に科学的根拠となり得る数値を算出できる。

(三) 被控訴人は、紀伊長島町の水道事業管理者として、町民に安心して飲める飲料水を供給すべき公共的使命を負い、一日たりとも給水を止めることはできないため、赤羽水源の流域面積において、日量九五立方メートル(一平方キロメートル当たり1292.517立方メートル)の取水が行われることを予測して、水位の低下を検討しなければならない。

乙四六によれば、赤羽水源の浅井戸の水位は、平成八年一二月下旬から平成九年三月上旬にかけて低下が大きいことがわかる。そして、赤羽水源の地下水は、水文条件、特に三戸川の流量に強く支配されている点(失水河流)が最大の特性であるため(乙四二)、上流域における新たな取水による影響の有無については、赤羽水源の流域単位で解析する必要がある。赤羽水源の流域面積は30.6平方キロメートル(乙三五)であり、第一敷地と第二敷地の合計面積(0.0735平方キロメートル)の約四一六倍に当たる。仮に、本件各施設計画地で日量九五立方メートルの取水を認めると、今後赤羽水源の流域において取水を要する施設が設置される場合には、少なくとも右と同量の取水(一平方キロメートル当たり日量1292.517立方メートル)を認めざるをえなくなり、その場合の赤羽水源の流域における最大取水量は日量三万九五五一立方メートルとなる。

しかるに、本件各施設計画地における平均値に基づく地下水涵養量は、地下水流出量年間四五〇ミリメートルとすれば、一平方キロメートル当たり日量一二三〇立方メートルとなり(原判決六八頁)、赤羽水源の流域面積の地下水涵養量は日量三万七六三八立方メートルとなるのであるから、取水量が地下水涵養量を日量一九一三立方メートルを上回ることとなる。その上、一〇年に一度の確率で生起する少雨の降水量の点を考慮すると、右数値は更に上回ることになり、赤羽水源が枯渇するおそれがある。

さらに、三戸川流域の水収支を検討するに当たり、仮に敷地単位の涵養量を前提にしない場合でも、三戸川を第一タンクないし第三タンクに区分けして、本件各施設計画地での日量九五立方メートルの取水が赤羽水源に及ぼす影響を調査すると、最渇水期においては赤羽水源が枯渇する蓋然性があり、町民に対し、いかなる時でも必要量の上水道を供給する義務を負う被控訴人にとっては、到底無視できない程度の渇水のおそれがある(乙六九)。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、本件処分の取消を求める控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実及び理由欄の「第三 争点に対する判断(原判決四五頁末行冒頭から同八六頁初行末尾まで)」のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四六頁初行末尾のあとに改行して次のとおり付加する。

「 控訴人は、本件各施設計画地における日量九五立方メートルの取水の供給源として、主として湧水を汲み取り、補助的に調整池の雨水を用い、例外的に給水車による水道水をもって補給する旨主張する。」

2  同四七頁六行目「同一三、」のあとに「乙八、六六、七〇、」を付加し、同七行目冒頭から同一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「3 なお、例外的に、給水車による水道水の補給を水源とする点について、控訴人の本件開発行為許可申請書(甲一二)にはその具体的内容が全く記載されておらず、どこの水道水を運ぶのか、又、採算上、果たして実現性があるのかどうか不明である(甲一二、乙七〇)。

以上のとおり認められる。もっとも、本件開発許可申請書(甲一二。二八四丁、乙一二、原審証人大田行保)によれば、平成六年九月二四日に大田行保が調査した結果により、第一敷地では日量105.266立方メートル、第二敷地では日量10.286立方メートルの湧水を確保することができた旨の記載部分がある。しかしながら、右調査の状況を撮影した写真であるとして添付されている写真の一〇枚中に、湧水を取水しているものはなく、いずれも浸透水を取水しているものと認められる。仮に右調査日に日量約一〇五立方メートルの取水が可能であったとしても、甲四九の3によれば、同月一一日から同月二三日までの降雨量は143.5ミリメートルの多きに及んでいることが認められる。このように、多量の降雨量があった後の一回限りの実測値をもって、年間を通じて、渇水時においてもその九割に相当する日量九五立方メートルの取水が可能であると認めることはできない。

他に、前記認定事実を覆すに足る証拠はない。そして、前記認定事実によれば、控訴人が、本件各施設計画地に必要な水を、湧水、堆砂池中の雨水又は例外的に水道水によって賄うことは困難であると認められる。

したがって、以下においては、控訴人が本件施設に必要な日量九五立方メートルの水を賄うため、地下水を取水した場合の赤羽水源に与える影響の有無程度について検討する。」

3  同四八頁二行目「同四一ないし四四、」のあとに「四六、六二、六三、六五ないし六七、六九、」を付加し、同二行目から三行目にかけての「同森和紀」のあとに「及び当審証人西村進」を付加し、同五行目「岩」を「不透水層の岩盤」と改める。

4  同四八頁六行目「得水河流となっているのに反し、」を次のとおり改める。

「得水河流となっている。これに反し、三戸川の表流水は渇水期において、金山淵(第一敷地と赤羽水源の中間辺りに位置する)の下流約七五〇メートルの地点で伏没して地下帯水層に入っている。この地下帯水層は赤羽水源付近の地下帯水層と連続しているものであって、」

5  同五〇頁一〇行目末尾のあとに改行して次のとおり付加する。

「 同様なことは甲五二、乙四六、七五によれば、後に認定するように控訴人(平成九年一二月一九日以降同一〇年二月二一日)及び被控訴人(平成一〇年二月六日以降同年三月一九日)がそれぞれ行った降水量調査と地下水水位調査によれば、右地下水水位は降水に応答して変化していることが、図表によって明確に識別されること(甲五二の図2―2―1、乙四六の図4―2)、被控訴人がデータによって調査した浅井戸は平成八年一二月下旬から翌九年三月上旬の渇水期の水位低下は、二か月間で5.194メートル、一日九センチメートルの割合で低下し、同年三月三日には取水不能になっていることが認められる(乙四六の図4―4、乙五六)。」

6  同五一頁四行目「なるほど」以下同五行目末尾までを次のとおり改める。

「(1) 銅勝工業所作成の平成二年三月の報告書(甲一〇)には赤羽水源が周囲に与える影響範囲について、赤羽水源の深井戸から日量二〇〇立方メートルを取水した場合、周囲に与える影響は五〇メートルの範囲内までに限定される旨の記載部分がある。」

7  同五二頁三行目末尾のあとに改行して次のとおり付加する。

「(2) 控訴人は、当審において新たに甲五二を提出し、赤羽水源の近傍において、新たに観測孔を掘って日量九五立方メートルを取水し、これによる地下水の低下の及ぶ範囲を調査したところ、赤羽水源の取水施設から一五メートル以上離れた場所に設置されれば赤羽水源の井戸の水位は低下しないこと、本件各施設計画地は赤羽水源から直線距離にして約三キロメートル離れているので、本件各施設計画地において日量九五立方メートルを取水しても、そのために赤羽水源の井戸の水位が低下するおそれは全くない旨強調し、甲八二、一〇九、一一四、当審証人中村和弘、同上森千秋の各証言中には右主張に沿う部分がある。

甲五二、八二及び当審証人中村和弘の証言によれば、赤羽水源影響調査報告書は、株式会社相愛(担当者中村和弘)が、平成九年九月から翌一〇年三月までの間、赤羽水源の井戸の近傍に六孔の水位観測孔を設置し、日量九五立方メートルを取水して、観測孔の水位変化を測定し、その結果を中村和弘がまとめ、上森千秋が照査した報告書であること、同調査に基づく地下水水位の観測値、揚水試験、地下水流動量、流量観測値によれば、なるほど、日量九五立方メートルを取水する新たな井戸が赤羽水源の取水施設から一五メートル以上離れた場所に設置されても、赤羽水源の井戸の水位は低下しないとしていることが認められる。

しかしながら、乙四六、五二、五五の1、五六、七六、当審証人西村進の証言によれば、右調査については、第一に、揚水試験による影響圏の範囲の推定は、集水域や帯水層の地層の特性(透水係数、動水勾配等)を共通にする連続した帯水層を前提にしており、それゆえに、揚水により影響が距離に応じて減衰していくという仮定が成り立つものであるけれども、既に認定したように(原判示)本件各施設計画地と赤羽水源のように、水文学的特性が異なり、帯水層に連続性が認められない部分に対する影響を論じることはできないこと、第二に、揚水試験による影響圏の範囲は、汲み上げの速度と周囲からの水の供給速度によって決まるが、赤羽水源の場合には、帯水層の上部と下部とで透水係数が著しく違うため、渇水期には、透水係数の高い上層部よりも、透水係数の低い下部層からの汲み上げが主になるため、後記のとおり水量豊富な時期の揚水試験によって渇水期における影響圏を調査するのは不適切であること、以上の問題点が認められ、又、控訴人は右調査を渇水時期に実施したと説明しているけれども、甲五二の図2―2―1によっても明らかなごとく、きわめて降雨量の多い時に遭遇したことが認められる。

右認定事実によれば、右調査は手法に問題点があるばかりでなく、例年の渇水時期に実施されたとはいうものの、調査時期は実際には、大量の降雨があり地下水の豊富な時期であったと認められるところ、本件各施設計画地における日量九五立方メートルの取水が、特に渇水時期における赤羽水源の井戸に対してどのような影響を及ぼすかを調査する資料としての価値は少なく、控訴人の前記主張を裏付ける資料たり得ないものというべきである。よって、これに沿う前記各証人中村和弘、同上森千秋の各証言も又措信し難いものである。

(3) 控訴人は、又、甲五二(図2―2―3)及び当審証人中村和弘の証言を根拠に、本件各施設計画地近傍において三戸川は後背地の地下水で涵養される得水河川であるが、赤羽水源付近では逆に河が地下水を涵養する失水河川となっている事実を否定する。しかし、赤羽川水源影響調査と同報告書の作成を担当した株式会社相愛の従業員中村和弘自身、三戸川が調査期間中伏流水になったこと、伏流になった後は地下の帯水層に入ること、ということは、伏流水になるより上流の三戸川の河川水は地下の帯水層を涵養していること、伏流水になっているときは河床より上に水が全然ない状態になることは認めるものであるから、右は結局赤羽水源付近では失水河川になっていることを認めることに他ならない。

又、控訴人は、右の点に関連して、金山淵から伏没した地下水が赤羽水源に至るまでには一八六日間を要するところ、赤羽水源の地下水は降雨に敏感な地下水で一雨降れば水位は上昇するから、一八六日間の内には、日量九五立方メートルの取水による影響は消し飛んでしまう旨主張し、甲八四、一〇九及び当審証人上森千秋の証言には右主張に沿う部分があるけれども、一八六日間の根拠となる甲八四について、動力勾配、透水係数などの数値が地点又は深さにより相違があるのにこれを一定の数値としていること、先に認定したように赤羽水源の各井戸の地下水水位が降雨により敏感に反応する事実と符合しないこと(乙七六)に徴し、右主張及び証拠は採用できない。他に、前記認定を覆すに足る証拠はない。」

8  同五三頁三行目「甲一〇、」のあとに「一一、」を、四行目「同三〇、」のあとに「三一、七七、七八、」をそれぞれ付加する。

9  同五九頁八行目末尾に「右は、又乙五六によって認められる津地方気象台の紀伊長島町長島四四番地における一九七九年から一九九八年までの観察による準平均値(一九七九年から一九九〇年までの一二年間)の2570.9ミリメートルからも是認される。」と付加する。

10  同六四頁五行目末尾のあとに改行して次のとおり付加する。

「 この点、控訴人は、一級河川である新宮川は三戸川と河川相を異にするのでその資料は信頼できない旨主張するけれども、水文気象条件の近似によって選択されたものであるから、一級河川か二級河川かの相違はこの選択の妨げとなるものではない。」

11  同七〇頁三行目「(乙四五)」を「(乙四五、八〇)」と改め、同七行目「同四四のあとに「五八、六九」を付加する。

12  同七〇頁末行「平成九年二月」とあるのを「平成九年三月四日」と改める。

13  同八二頁七行目末尾のあとに改行して次のとおり付加し、同八行目の「(5)」を「(6)」と改める。

「(5) 右認定に対し、控訴人は、赤羽水源の浅井戸が過去二回枯渇したというのは誤りで、浅井戸の設計に問題があるため水位指針がゼロを表示したにすぎず、実際にはまだ日量一万五六一六立方メートルの取水が可能であったし、深井戸から取水すれば枯渇することはない旨主張し、右主張を裏付ける証拠として甲四一の1ないし4、六〇ないし六四、八五ないし九七を挙示する。

しかしながら、原判決挙示の証拠(原判決七〇頁六、七行目)のほか、乙四六、四八、四九の1、2、五一、五二、五三の1、2、五四、五七、六〇、六一、六四、六八及び当審証人西村進の証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

① 赤羽水源は昭和四八年二月二八日完成し、同年秋から給水が開始された。四年後には給水需要が増大し、既設の井戸(二号井。浅井戸)の揚水能力が限界に達した。特に、盆、正月時には使用量が極度に増加し、排水池に余裕ある貯水量を保てない状況になった。又、渇水期には、浅井戸が浅いため取水不能となることが生じ、給水車からの補給により急場を凌いだ。

② 紀伊長島町は、このような実情を解消するため、昭和五二年ころ、浅井戸を改良した。浅井戸は、右改良前工事の前までは、陸上ポンプによっており、取水可能水位が基準位よりも0.9メートル上にあったので、水位計の水位が基準位になることはあり得なかった。

しかしその後、渇水により取水できなくなってきたことから、右改良工事を実施し、掘り下げてケーシング管を挿入し、陸上ポンプから水中ポンプ(エバラ深井戸用、水中ポンプBHSイドボーイ)に代えた。これにより、浅井戸の深さが約9.4メートルとなり、少なくとも基準位まで取水が可能になった。

③ イドボーイのポンプ据付要領には、ポンプの運転可能最低水位を運転水位を基準に決定すること、水位測定の基準位は、ポンプ口径一五〇まではパイプ一本程(2.75メートル)以上とらなければならないこととされている。そこで、紀伊長島町においては、2.67メートルの位置に基準位を設置した。すなわち、水位測定の基準位置を取水の限界としており、基準位以下は取水不能(枯渇)としたものである。基準位以下の部分では、井戸の口径が非常に小さくなり、急激に水位が低下するので、基準位下の取水は水中ポンプの場合非常に危険である。そして、紀伊長島町は、平成六年三月二五日制定の本件条例において、『水源の枯渇』の定義として、『取水施設の水位を著しく低下させること』と規定している(本件条例第二条三号)。

④ 赤羽水源は、その後自然的諸条件の変化により、取水水位が低下傾向にあった。特に昭和六三年二月期の長期干魃により、浅井戸の水位異常低下があり、赤羽水源区域では一時的断水及び長期的節水を余儀なくされた。そのため、早急に新水源の確保と施設の改善により生活用水の安定供給を図る必要が生じ、平成元年に、深井戸(深さ約二三メートル)が設置された。

⑤ しかし、浅井戸は、平成七年八月二五日及び平成九年三月四日の二回にわたり、取水位ゼロを表示し、平成一一年二月五日から同月二六日までの間においても、浅井戸は渇水状態になって取水位ゼロを表示した(乙六四)。又、同月二二日における浅井戸の水位は10.48メートルで、渇水時期から更に下がった(乙六〇)。又、同月二四日における深井戸の水位は井戸の底から5.33メートル(乙六一)、同月二六日における同水位は5.01メートル(乙六四)となっており、いずれの場合も深井戸の危険水位を更に下回った状態であった。

以上のように認めることができ、右認定に反する前掲証拠はにわかに措信することができず、他に、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、浅井戸は設計上の欠陥はなく、据付要領に従って正しく設置され、機能してきたにもかかわらず、本件処分当時までに少なくとも過去二回取水位ゼロ、すなわち、本件条例に定めるところの枯渇の状態になったことは明らかである。

この点、控訴人は、深井戸は枯渇しないから同井戸から取水すれば足る旨主張するけれども、被控訴人においては深井戸の設置以来両井戸を交互に使用しているものであり、右の処理方針をやめて深井戸一眼だけの取水にするには右が被圧水層からの揚水で水文学上相当なものか否かはさておくとしても、水源地運転日誌から認められる作業状態からすれば必ずしも相当でないことが窺われ、又、右深井戸によってさえも、最近危険水位を更に下回った状態になったことは、前記認定のとおりである。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

又、控訴人は、被控訴人が当審において提出した乙四六、四八、五一、五二の資料は水位の変化に関してミリ単位まで記載されているのでかいざんデータである旨主張する。乙四六、六三(四頁以下)及び当審証人西村進の証言によれば、基本となる実測値に相関関係を確かめたミリ単位までの換算式を用いた結果に他ならず、手法、判断過程には合理性があるので、右証拠内容はかいざんデータとは認められない。控訴人の右主張は失当である。」

二  控訴人は、仮に水収支法を適用するとしても、地下水涵養量を算定するのに、敷地面積を単位とするのは、赤羽水源の流域全体の土地所有者が一斉に井戸を掘って取水する事態を想定するもので、現実離れした空論であり、根本的な誤りである、日量九五立方メートルの取水が赤羽水源に与える影響の有無、程度を調査するのに、本件各施設計画地の面積の広狭は無関係である、涵養流域単位の水収支法によれば、日量九五立方メートルの取水は水収支をマイナスにしないので赤羽水源に全く影響を及ぼさない旨力説し、当審における新たな証拠である甲八五、一〇九及び原審証人大田行保、当審証人上森千秋の各証言中には右主張に沿う部分がある。

しかしながら、前記(原判決五三頁ないし五七頁)認定及び乙一六、二〇、二四、三一、七七ないし七九及び当審証人西村進の証言によれば、水収支法とは、ある具体的な地域を対象にして一定の期間内における水の流入量と流出量の均衡状態を定量的に明らかにする研究手法であり、水の循環機構の解明を第一とする水文学の主体をなすものであるところ(乙七七)、適正な水資源の利用は、流域全体の水収支がマイナスにならないように配慮すべきであり、そのためにはそれぞれその利用者がその敷地面積に応じた涵養量を遵守しなければならず、敷地面積単位の水収支を検討するのも相当と認められる。又、水循環の理念の下では、地下水は一定の土地に固定的に専属するものでなく、地下水脈を通じて流動するものであり、その量も無限ではないから、このような特質上、土地所有者に認められる地下水利用権限も合理的な制約を受けることになるばかりでなく、本件各施設計画地のように後背地から地下水の涵養を受けている条件の下で、一人のために後背地の面積を含めて地下水涵養量を計算することは、先行開発者に単位地下水域全体の地下水を独占させることを前提にして環境影響評価を行うこととなり、著しく妥当性を欠くことになる。

更に水源における特殊事情、すなわち、三戸川は、二級河川赤羽川の支流で、赤羽水源より上流域で流域面積30.6平方キロメートル、主流路延長わずかに一〇キロメートルであるところ、赤羽川合流点近くに設置された赤羽水源においては、三戸川から十数メートルの地点に設けられている浅井戸も深井戸もともにその水位は、同河川の水位に相応して変動し、又降雨量によっても一、二日間で同様に変動することは観測上明らかであること(甲五二の図2―2―1、乙四六の図4―2、図4―4、七五)、先に認定したように浅井戸は設置後の掘り下げによる改修にもかかわらず、昭和六三年には断水の事態を引き起こし、深井戸を増設せねばならなかったこと、同井は透水係数の悪い被圧地下水を揚水するものであり、専らこれによることは、汲み上げ量とそれに要する時間の関係を運転日誌(乙六四)から読み取っても相当とは認められないこと、赤羽水源では右両井戸を交互に使用しているが、その後も一年に約一度の割合、すなわち、平成七年八月二五日(乙四二)、平成九年三月四日から同月二一日まで(乙四六)及び平成一〇年二月五日から同月二六日まで(乙六四)の間、それぞれ浅井戸は枯渇によって揚水を止め、専ら深井戸によらざるを得ない事態が起きていること、紀伊長島町では赤羽簡易水道によって給水人口八〇〇人、年間総給水量九万五二三四立方メートル、一日平均給水量二六一立方メートルの給水を続けなければならず(甲五九)、人口の減少を考慮しても、都市化による下水道の整備の要請等により更なる給水量の減少は考えられない。

かかる事情を前記水収支法を前提にした判断と総合勘案すれば、特に三戸川水域系では前記敷地面積に応じた地下水涵養量を是認すべき理由があるものと認められる。したがって、この点の控訴人の主張は、本件流域内において取水を要する他の施設等の設置を一切認めないことを前提としてはじめて成り立つものであり、採用できないものというべきである。

してみると、控訴人挙示の証拠は前記証拠と対比してにわかに措信することができず、他に、右認定、判断を左右するに足る証拠はない。以上によれば、本件において地下水涵養量を算出するに当たっては、敷地面積を基準とする水収支法を適用するのが相当である。

三  本件条例無効の主張について

1  先ず、被控訴人は、控訴人が、原審において、裁判所の釈明に応じ、赤羽水源の枯渇のおそれの有無のみを争点とし、この点に絞って主張、立証がなされたにもかかわらず、当審に至って、本件条例の無効を主張するのは、禁反言の法理、訴訟上の信義則に違反し、又、時期に後れた攻撃防禦方法として許されない旨主張する。しかしながら、本件条例の効力は本件処分が違法か否かの前提となる根本事項であるから、控訴人が訴訟の経過に鑑み右主張をしたことをもって、禁反言の法理に違反するとか、訴訟上の信義則に反するものということはできない。又、本件証拠調の内容に照らすと、格別の審理を要するものとは認められず、訴訟の完結を遅延させるものとはいえないから、この点の被控訴人の主張は採用しない。

2  そこで、本件条例の効力について検討するに、控訴人は、本件条例は、既に廃棄物処理法一五条一項によって許可を得ている控訴人を規制対象事業場に認定するもので、いわれなき差別であり、法の下の平等に反するばかりでなく、条文の体裁からも明確を欠くものであるから無効の条例であると主張する。

法の下の平等は、実質的な平等をいうものであるから、本件条例二条四号別表、同条例施行規則二条別表によれば、対象事業は産業廃棄物処理業の他一二種に及ぶものであって、その業種をみればいずれも水質を汚濁させ、或いは水源を枯渇ないしは枯渇をもたらすおそれのある事業とされることは十分うなずけるものであり、しかも掲記事業は本件条例一三条所定の手続を経てはじめて規制対象事業場と認定されるのであるから、これをもって規制を受ける事業に対し、法の下の平等に反するとの主張は肯認することができない。この点の控訴人の主張は理由がない。又、水道水の水質の汚濁、水源の枯渇というものは数値をもって一義的に定めることは困難であるところ、右認定をするための審議会の設置、人的組織の構成、事業者に要求される措置、町長の責務等条例上の規定をみれば、その解釈適用が濫用ないしは拡張解釈されるおそれはない。条文の明確を欠くとの控訴人の主張も理由がない。更に、前記廃棄物処理法は、産業廃棄物の排出を抑制し、産業廃棄物の適正な処理によって、生活環境の改善をはかることを目的とするのに対し、水道法第二条の二によって、地方公共団体に施策を講ずることが定められた結果、紀伊長島町が住民の生命と健康を守るため、安全な水道水を確保する目的で同町が制定した本件条例とではその目的、趣旨が異なるのであるから、本件条例が前記廃棄物処理法に反して無効ということはできない。

更に、遡及効に関する控訴人の主張は主張自体失当である。

四  結論

以上によれば、本件処分は相当と認められ、控訴人の本件請求は理由がないものというべく、したがって、これを棄却した原判決は相当である。

よって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・笹本淳子、裁判官・鏑木重明 裁判官・戸田久は差し支えのため署名、押印できない。裁判長裁判官・笹本淳子)

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